疚しいところがあるから、刺されるかもなんて思ったんだ。

たーこいずです。

 

簿記子の思い出の続き。

 

簿記子との契約を解除してもらった。しかも顔を見ないままで済んだ。

 

私はほくそ笑みながら仕事をしていただろう、きっと。

 

夜遅く事務所のドアが乱暴に開いた時、なにか用があって、

 

現場作業者か、誰かが立ち寄ったんだろう、くらいに私は思った。

 

顔を上げて見た時、私は口の端に笑みを浮かべていた。挨拶しようと。

 

そのまま凍った。鬼の形相の簿記子が立っていたから。

 

私はいつも、郵便、宅配などの受け取りや、来客応対の都合から、玄関に対面して

 

仕事をしていた。ので、正面切って簿記子に対峙するしかなかった。

 

簿記子は室内履きを探して靴箱を見た。当然中には無い。

 

私が、後で派遣元の担当に渡そうと、紙袋に入れて天板の上に置いたから。

 

簿記子にとってはそれが、不用品を除ける行為に思えたかもしれない。

 

一層、怒りに顔をゆがめた。

 

私は、簿記子がその室内履きを持って、帰るだろうと思った。

 

しかし、簿記子はそれを履いて、事務所内に入って来た。私に向かって来る。

 

刺される・・・!!!!!

 

何故か、とっさにそう思った。そして席を立って、簿記子をかわした。

 

給湯室へ行くドアを開け、そそくさと閉めた。

 

そしてトイレに籠って、鍵をかけた。

 

かなり長い時間(私にとっては)が流れ、私はそーっと、トイレを出てみた。

 

そして、給湯室のドアの隙間から、事務所を覗いた。・・・まだいる!!

 

簿記子は自分にあてがわれていた机の引き出しを開け、何かをバッグに

 

放り込んでいた。そして、程なく事務所を出て行った。

 

私はしばらく、事務所には戻れなかった。不思議と電話も鳴らなかったので、

 

しばらく給湯室で考えていた。

 

無言で席を立って逃げるなんて(挨拶もせず入室した簿記子も相当だが)。

 

何て感じ悪いんだろう私。

 

疾しいところが何にもないなら、堂々としてられる筈なのに。

 

心が咎めるから、刺されるかも、なんて思うんだ。

 

何も言わずに侵入してきた部外者を、責めるべき立場なのに。

 

結局、私は自分のしたことを、悪い事だと感じているんだ。

 

(後々になっても、この簿記子事件は、私の心に影を落とした。現在も。

 

何か悪い事が起こると、あの時の罰だ、自業自得だと。)

 

その後も、しばらく給湯室に籠っていたら、駐車場に面した窓ガラスが、

 

車のライトで眩しく光った。また誰かが来たみたいだった(一旦切ります)。